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AI導入実務講座 初級|Chapter 1 AI導入を業務改革として捉える

AI導入で何を整理する?業務・データ・組織の3視点と安全管理

AI導入を検討し始めると、「どのツールを選ぶか」「どの業務に使えるか」という話に意識が向きやすくなります。もちろん、ツールや対象業務の検討は大切です。ただし、事業会社で成果につなげるためには、業務だけを見るのではなく、AIが参照する、または入力・連携させる情報や、社内で誰が使い続けるのかまで含めて整理することが重要になります。

この回では、AI導入を立体的に考えるための基本フレームとして、「業務・データ・組織」の3つの視点を確認します。事業会社の担当者・責任者が社内で説明しやすくなるだけでなく、AI導入支援を行う立場の方が、相談内容を整理するときにも使える考え方です。

想定学習時間:15分程度 対象:事業会社の担当者・責任者・経営者 AI導入支援者の基礎整理にも対応

この回で身につけること

AI導入では、AIをどの業務に使うかだけでなく、AIが参照する、または入力・連携させる情報の状態や、社内での確認・改善の流れもあわせて見る必要があります。今回のゴールは、社内説明や相談対応の場面で、AI導入に必要な検討事項を「業務・データ・組織」の3つに分けて説明できるようになることです。

  • 業務の視点:AIをどの業務に、どの範囲で使うかを整理する
  • データの視点:AIが参照する、または入力・連携させる情報の質・所在・更新状態を確認する
  • 組織の視点:誰が使い、誰が確認し、誰が改善するかを考える
  • 法務・情報管理・セキュリティの観点から、AIに入力・参照させてよい情報を整理する
  • AI導入支援者として、個人情報、著作権、秘密保持、契約、広告表現の確認事項を聞き取れるようにする

AI導入は「業務・データ・組織」で見る

AI導入とは、単に新しいツールを社内に入れることではありません。実務上は、業務の進め方を見直し、必要な情報を整え、社内で使い続ける仕組みをつくる取り組みです。そのため、初期検討の段階から「どのAIを使うか」だけで判断しようとすると、検討の範囲が狭くなってしまうことがあります。

AI導入では何を整理すればよいかという問いに対しては、まず「業務・データ・組織」の3つを確認すると考えやすくなります。これは、AI導入の基本フレームワークとしても使いやすい考え方です。専門的なシステム設計に入る前に、自社の現状を整理するための地図として活用できます。

図解:AI導入に必要な3つの視点

対象業務だけでなく、AIが扱う情報と、社内で運用する人の流れをあわせて確認します。

業務 どの業務に、どの範囲で使うか

作業の一部を支援するのか、業務の流れ全体を見直すのかを整理します。

データ どの情報を扱うか

正確性、更新状態、利用規約、個人情報、著作権、社内規程への適合を確認します。

組織 誰が使い、誰が確認するか

出力内容を人が確認し、運用上の課題を見直せる体制を整理します。

3つの視点は別々ではなく、業務が決まると必要な情報が見え、情報の状態が分かると確認者や改善担当者が見えてきます。

業務の視点:AI導入の業務設計では、使う場面と範囲を決める

業務の視点では、AIをどの業務に使うのか、またどの範囲まで任せるのかを考えます。たとえば、営業資料作成AIを導入する場合でも、使い方はいくつか考えられます。提案書のたたき台を作るのか、過去資料をもとに構成案を出すのか、顧客ごとの説明文を整えるのかによって、必要な設計は変わります。

ここで大切なのは、「営業資料作成にAIを使う」と大きく捉えるだけでなく、業務のどの場面で支援してもらうのかを分けて考えることです。最初から業務全体を変える必要はありません。資料がそろっていない段階でも、現在の業務の流れから整理できます。

相談や社内検討で使いやすい確認例

  • AIを使いたい業務は、社内向けですか、顧客向けですか。
  • AIには下書きを作らせたいのか、検索を補助させたいのか、判断材料を整理させたいのか。
  • 最終的に誰が確認し、誰の名前で社外に説明するのか。

データの視点:AI導入におけるデータ整備と参照情報の確認

データの視点では、AIが参照する、または入力・連携させる情報の質・所在・更新状態を確認します。ここでいうデータとは、数値データだけを指すわけではありません。営業資料、商品説明、社内マニュアル、FAQ、議事録、過去の提案書など、AIが回答や文章作成の参考にする情報全般を含みます。

ここで重要になるのが、個人情報・営業秘密・著作権等の観点から、AIに入力・参照させてよい情報かを確認することです。営業秘密とは、不正競争防止法上の管理された機密情報を指す概念です。社内で秘密として管理されている営業情報、技術情報、顧客情報などが含まれる場合があります。

たとえば、他社資料や著作物を権利処理なく取り込んでいないか、顧客名や担当者名などの個人情報が含まれていないか、秘密保持契約(NDA)の対象となる情報が混在していないかを確認しておくと、社内で説明しやすくなります。

AI導入におけるデータ整備というと、専門的なデータ基盤や大規模なシステム整備を想像するかもしれません。しかし初期検討では、まず「どこに情報があるか」「どの資料を参照してよいか」「情報が古くなっていないか」を確認するだけでも、検討を進めやすくなります。あわせて、利用規約、個人情報保護法、社内情報管理規程等に照らし、AIに入力・参照させてよい情報かを確認します。

組織の視点:AI導入時の組織体制と確認・改善の流れ

組織の視点では、AIを社内でどのように使い続けるかを考えます。AIは導入した時点で完了するものではなく、使い方を確認し、必要に応じて改善していくことで、業務に合いやすくなります。そのため、誰が利用者になるのか、誰が出力内容を確認するのか、誰が運用上の課題を集めるのかを整理しておくと安心です。

AIの出力には、もっともらしく見えても事実と異なる内容が含まれることがあります。このような誤りは、一般にハルシネーションと呼ばれます。そのため、AIの出力をそのまま社外に出すのではなく、最終判断は人が行う体制を前提とします。

特に、価格、仕様、契約条件、法的な説明、広告表現(景表法・薬機法等)など、対外的な説明責任が生じる内容では、人による確認フローを明確にしておくことが大切です。AI導入支援を行う場合は、広告表現や契約上の制限、個人情報の取扱いなど、専門家に確認した方がよい領域を切り分ける視点も役立ちます。

AI導入時の組織体制という言葉を使うと、大きなプロジェクト体制を想像しがちです。しかし、初期段階では小さく整理することから始められます。たとえば、営業部門で試す場合は、利用する営業担当者、内容を確認するマネージャー、資料やルールを管理する担当者を分けて考えるだけでも、運用の見通しが立ちやすくなります。

営業資料作成AIを例に整理する

ここでは、営業資料作成AIを導入する場合を例に、3つの視点を具体的に見てみましょう。営業部門や企画部門、管理部門でも応用しやすい考え方です。

視点 確認すること 営業資料作成AIでの例 AI導入支援者が見る観点
業務 AIをどの作業に使うか。人が判断する部分とAIに支援してもらう部分を分ける。 提案書の構成案作成、文章の下書き、顧客向け説明文の調整に使う。 社外向け説明に使う文書か、社内検討用の文書かを確認する。
データ AIが参照する、または入力・連携させる資料や情報がどこにあり、内容が最新か、AIに入力・参照させてよい情報かを確認する。 商品資料、価格表、導入事例、過去の提案書の保管場所と更新担当を確認する。あわせて、個人情報、営業秘密、著作権、NDA、利用規約、社内規程への適合を確認する。 個人情報保護法、安全管理措置、委託先管理、著作権、契約上の秘密保持の確認が必要かを見る。
組織 誰が使い、誰が内容を確認し、誰が改善点を集めるかを決める。 営業担当者が下書きを作り、マネージャーが内容を確認し、企画担当者が資料の更新点を管理する。価格・仕様・契約条件などの対外説明に関わる内容は、最新版の公式資料と照合する。 最終確認者、承認者、記録の残し方、社外説明時の責任範囲を確認する。

このように整理すると、AI導入の業務設計は、単に「AIで資料を作る」という話ではないことが見えてきます。業務のどこを支援するか、どの情報をもとに作るか、誰が確認するかがつながって初めて、社内で使いやすい形になります。

図解:営業資料作成AIを導入するときの確認順序

AIの出力だけを見るのではなく、入力となる情報、人による確認、改善の流れまで含めて考えます。

1 業務の場面を決める

提案書作成のうち、構成案、文章の下書き、表現調整など、AIに支援してもらう範囲を整理します。

2 参照情報を確認する

商品資料、導入事例、社内ルールなどの所在と更新状態を確認します。利用規約や社内規程に照らして、AIに入力・参照させてよい情報かも見ておきます。

3 運用の役割を決める

作成者、確認者、改善点を集める担当者を整理します。対外説明に関わる内容は、人が最終確認する前提にします。

この図から読み取れるポイントは、AI導入が「AIに何をさせるか」だけでは完結しないということです。業務、データ、組織を順番に確認すると、社内説明や検討資料に落とし込みやすくなります。

公的調査から見る、データと組織体制の重要性

客観的な背景として押さえたいこと

IPAのDX関連調査(DX動向2024等)では、DXやAI活用を進めるうえで、人材不足、自社内での理解不足、データ整備・管理に関する課題が多くの企業で見られる傾向が示されています。具体的な数値を社内資料や稟議資料に引用する場合は、正式な資料名、公開年、該当ページ、調査対象を確認したうえで記載すると、説明の正確性を高めやすくなります。

この傾向からも、AI導入の課題は技術選定だけではなく、データを整える力や、社内で推進・確認・改善する人材と組織体制にも関係していることが分かります。初期検討の段階で「業務・データ・組織」を並べて確認することは、実務上の再現性を高めるうえでも有効です。

出典:IPA「DX動向2024」等

よくあるつまずき:3つの視点のどれかに偏ってしまう

AI導入の初期検討では、特定の視点に偏ってしまうことがあります。これは珍しいことではありません。むしろ、最初の段階では関心のあるところから話が始まるのが自然です。そのうえで、検討を進めるときに不足している視点を少しずつ補っていくことが大切です。

ツールの機能だけで判断してしまう

新しいAIツールを見ると、できることの多さに注目しやすくなります。ただ、機能が豊富であっても、自社の業務のどこに合うかが整理されていないと、社内で説明しにくくなることがあります。ツールの比較をする前に、まずは対象業務と利用場面を確認しておくと、判断しやすくなります。

データや資料の状態を後回しにしてしまう

AIの出力品質は、AIが参照する、または入力・連携させる情報の状態に影響を受けます。たとえば、古い価格表や更新されていない商品説明をもとに文章を作ると、後から人が大きく修正する必要が出てくることがあります。最初から完璧なデータ整備を目指す必要はありませんが、どの資料を使うか、どの資料は確認が必要かを分けておくと安心です。

また、資料の内容が正しくても、AIに入力・参照させること自体に注意が必要な場合があります。顧客情報、契約条件、未公開の営業戦略、他社資料、著作物、NDA対象情報などは、AIサービスの利用規約や社内情報管理規程に照らして確認したうえで扱うことが大切です。

利用者任せの運用になってしまう

AIを現場で使ってもらう場合、利用者の工夫だけに任せると、使い方が人によってばらつくことがあります。良い使い方が見つかっても、共有されないまま個人のノウハウにとどまることもあります。誰が確認し、どのように改善点を集めるかを決めておくと、組織として学習しやすくなります。

出力内容の確認も、組織として整理したいポイントです。AIの回答や文章案には、誤り、古い情報、根拠が不十分な表現、広告・契約・法務上の確認が必要な表現が含まれることがあります。営業資料や対外資料に使う場合は、最新版の公式資料と照合し、必要に応じて法務・情報管理・セキュリティの担当者に確認する流れを考えておくと、実務で使いやすくなります。

経営者・責任者向けの確認ポイント

経営者や責任者がAI導入を検討する際には、個別ツールの性能だけでなく、社内プロジェクトとして成立するかを確認する視点が役立ちます。特に、業務・データ・組織の3つがつながっているかを見ると、導入後の運用イメージを持ちやすくなります。

確認しておくとよい観点

  • AIを使う対象業務が、経営課題や部門課題とつながっているか
  • AIに参照させる、または入力・連携させる情報の管理責任があいまいになっていないか
  • 個人情報・営業秘密・著作権・秘密保持契約の観点から、AIに入力・参照させてよい情報の範囲を確認できているか
  • 個人情報保護法上の安全管理措置や委託先管理の観点から、必要な確認を行える体制になっているか
  • 現場の利用者だけでなく、確認者や改善担当者も想定できているか
  • AIの出力に誤りが含まれる可能性を踏まえ、人が最終判断する確認フローを設けられているか
  • 小さく試した結果を、次の改善につなげる流れがあるか
  • 法務(個人情報・著作権・契約)、情報管理(機密情報・社内規程)、セキュリティ(外部送信・アクセス制御)など、必要な確認先を早めに把握できているか
  • 入力データの学習利用の有無や取扱いについて、利用規約・契約内容を確認できているか

初期検討では、すべてを詳細に決める必要はありません。まずは現在の状況を整理してみましょう。業務の流れ、使う情報、関わる人を並べるだけでも、社内で説明しやすい検討資料の土台になります。

AI導入支援者としての着眼点

AI導入コンサルタントを目指す方や、AI導入支援に関心がある方にとっても、「業務・データ・組織」の3つの視点は重要です。顧客企業から相談を受けるとき、最初からツール選定や技術構成に入るのではなく、現状を立体的に整理することで、支援の方向性が見えやすくなります。

たとえば、顧客が「営業資料作成をAIで効率化したい」と話している場合でも、確認すべきことは複数あります。現在の資料作成プロセス、参照している資料の管理状況、承認や確認の流れ、利用者のスキルや不安、AIサービスの利用規約、入力データの学習利用の有無や取扱い、入力禁止情報の有無などです。

相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。必要な手続きや確認した方がよい内容を、一緒に整理していくことが大切です。

支援者の役割は、すぐに答えを出すことだけではありません。顧客の言葉を、業務・データ・組織の観点に分けて整理し、関係者が同じ前提で話し合える状態をつくることも重要な支援です。特に、個人情報、著作権、契約、営業秘密、セキュリティの論点は、初期検討の段階で確認項目として置いておく方が進めやすくなります。

ミニチェックリスト

自社でAI導入を検討するとき、またはAI導入支援の相談を受けるときは、次の項目を確認してみてください。すべてに明確な答えがなくても問題ありません。できる範囲から確認していくと、検討を進めやすくなります。

  • AIを使いたい業務や作業場面を、具体的に言葉にできているか
  • AIに任せたい範囲と、人が判断・確認する範囲を分けて考えられているか
  • AIが参照する、または入力・連携させる資料や情報の所在を把握できているか
  • 参照する情報が最新か、更新担当者がいるかを確認できているか
  • 個人情報・営業秘密・著作権・秘密保持契約の観点から、AIに入力・参照させてよい情報かを確認できているか
  • 個人情報保護法上の安全管理措置や委託先管理の観点から、必要な確認を行える体制になっているか
  • 利用しているAIサービスの利用規約や、入力データの学習利用の有無・取扱いを確認できているか
  • 利用者、確認者、改善点を集める担当者を想定できているか
  • AI利用に関する社内ルール(入力禁止情報、確認フロー等)を定めているか
  • 現場で試した結果を、次の運用改善につなげる流れを考えられているか
  • 業務・データ・組織の3つの視点を、社内説明資料や相談メモに反映できているか

まとめ:3つの視点で現状を整理することから始める

今回は、AI導入に必要な基本フレームとして「業務・データ・組織」の3つの視点を整理しました。業務の視点では、AIをどの業務にどの範囲で使うかを考えます。データの視点では、AIが参照する、または入力・連携させる情報の質・所在・更新状態に加えて、利用規約、個人情報保護法、著作権、秘密保持契約、社内情報管理規程等に照らして、AIに入力・参照させてよい情報かを確認します。組織の視点では、誰が使い、誰が確認し、誰が改善するかを考えます。

この3つは別々の検討項目ではなく、相互につながっています。業務が決まると必要な情報が見え、情報の状態が分かると運用上の確認者が見えてきます。また、組織の役割が整理されると、AIをどこまで使うかも判断しやすくなります。AIの出力には誤りが含まれる可能性があるため、最終判断は人が行う体制を前提に、社内で使いやすい確認フローを整えていきましょう。

初期検討では、完璧な設計を目指す必要はありません。まずは現在の状況を整理してみましょう。次回は、AI導入担当者・責任者が社内でどのような役割を担うのかを整理していきます。

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